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どうすれば、あなたの会社を高く売れるのか?(Part.5)

■【交渉術】Point.8 報酬/インセンティブ

 

「報酬/インセンティブ」は、高く売ることとは直接関係のない話ですが、売却価格の交渉と並行して役員退職金などの支給を交渉することもオーナー個人の資産形成という観点からは重要なポイントです。

 

 会社売却という方法を使ってオーナーが資産を形成するには、株式譲渡(事業譲渡)代金を受け取る以外に、以下の方法により資金を受け取ることが考えられます。これらの方法により最終的な手残りを増やすことが可能となるので、交渉術として知っておくと良いでしょう。

 

・役員退職金を受け取る方法
・(役員等として残る場合)報酬やインセンティブを受け取る方法
・アーンアウト条項により「追加の対価」を受け取る方法
・業務委託契約を締結し、報酬(固定・インセンティブ)を受け取る方法

 

 これらを売却価格の交渉材料として使うこともできます。

 

 例えば、株式の売買価格が5億円で決まりそうだが買い手が渋っている場合に、「では、売買価格は4億7千万円で良いので、3千万円の役員退職金を支給してください」と交渉することがあります。

 

詳細は後ほど説明しますが、この方が売り手にとっても最終的な手取り額が増え、買い手にとってもメリットがあるので、交渉がまとまりやすいのです。

 

 こういった交渉をなぜするか? ポイントは税金です。

 

 EXITに関連する個人の税金は2種類。一つは、所得の増加に応じて税率も累進で上がっていく総合課税。これは所得税・住民税を合わせて最高税率約55%です。

 

 もう一つの種類は株式を売却した時の利益にかかる分離課税です。キャピタルゲイン課税とも言われ、20.315%と決まっています。

 

 この税率の差を利用したテクニックを紹介します。

 

●役員退職金を使った節税スキーム
 まず、役員退職金を使った節税スキームです。このスキームを使うには二つの前提条件があります。

 

 一つは、オーナーが売却後に退職し、退職金を受け取る予定であること。もう一つは、社長としての勤続年数が一定年数以上あることです。勤続数年ではこのスキームは使えません。

 

 具体的な例で説明しましょう。オーナー社長は創業者で、創業以来15年経営を続けていました。そして、この会社を2億円で売却することで買い手と合意形成できています。

 

 この時、株式譲渡で2億円を得るケース(下図①)と、役員退職金スキームを使って退職金を2,400万円受け取り、譲渡代金を1億7,600万円に下げるケース(下図②)を比べてみましょう。

 

 買い手から売り手オーナーに支払われる額はどちらも2億円で同じですが、税金のかかり方が違ってきます。

 

 

 まずは①のケースで税額を求めます。譲渡価格から取得原価5%と売却経費5%を差し引くと譲渡益が算出され、譲渡益に20.135%を掛けて税額が決まります。

 

 このケースでは、2億円×(1-5%-5%)×20.315%=36,567千円となり、約3,657万円の納税が発生することがわかります。

 

 次に、②の退職金スキームを使った場合にどうなるのか。

 

 退職所得からは40万円×勤続年数を差し引いて、さらに「2分の1」を掛けた上に、税率を当てはめて税額を求めます。計算式は次の通りです。このように退職所得は、老後の資産のためのものなので控除額が大きく設定されているところが特徴です。

 

 

 計算の結果、オーナー社長の退職所得課税は254万円で、株式譲渡所得に対する税金の約3,218万円と合わせると約3,472万円となります。

 

 この結果、①のケースと比べて、②の方が約185万円もお得になりました。同じ2億円のお金を払ってもらうとしても、その一部を退職金にするだけで、185万円手取りが増えるということです。

 

 勤続年数がもっと長く、受け取る退職金が大きいと、節税メリットもより大きくなります。税理士などと相談しながら、退職金も含めて売却の条件を決めるといいでしょう。

 

●退職金スキームには買い手にもメリットが!
 実は退職金を使った節税スキームには、買い手にとってもメリットがあります。

 

 下図の①のように株式譲渡で会社を買う場合、買収代金は経費計上できません。貸借対照表の現預金が減り、その分、純資産が増えるだけだからです。

 

 しかし②のように退職金スキームを使ったら、退職金の分だけ経費にできます。このケースでは、2,400万円×30数%を経費にでき、約830万円の節税メリットが生じるわけです。

 

 買い手にとってこれは非常にウェルカムな話です。退職金スキームを理解していない買い手に対しては、このように理屈を説明してあげるとスムーズに交渉がまとまることがあります。

 

 さらにこれを使って、「800万円の節税メリットを半々に分けませんか? つまり、400万円を売却代金に上乗せしてくださいよ」という交渉も可能になりますね。

 

 最後の最後の交渉で少しでも手残りを増やすために、役員退職金について理解しておくことはとても大切なのです。

 

 

 続く