ブログ

Blog

キーマン条項、アーンアウト条項のポイント

■キーマン条項(ロックアップ)

 

 キーマン条項(ロックアップ)とは、売り手企業のなかに事業で重要な役割を担うキーマンがいる場合に、M&Aで会社(事業)を売却した後も一定期間(通常3カ月~3年間)、キーマンが会社に残ることを約束するという条項です。

 

 一般的には次のように記載されます。

 

【キーマン条項の例文】
売り手は経営者自らに加え、経営陣と従業員の○○氏を、クロージング日
から起算して○年間、対象会社の業務に従事させるものとする。

 

 買い手はこの条項を設けることで、売り手のキーマンを一定期間にわたってつなぎ止めておき、重要な引き継ぎを行わせるわけです。

 

 買い手・売り手におけるキーマン条項のメリット・デメリットは次の通りです。

 

●キーマン条項のメリット(買い手側)
・キーマンが抜けてしまうことで事業がうまく回らなくなるリスクを軽減する。

 

●キーマン条項のデメリット(買い手側)
・売り手(キーマン)のモチベーションが続かない可能性がある。
・実際はキーマンでない人を残す可能性がある。

 

●キーマン条項のメリット(売り手側)
・アーンアウト条項などを併用することで、追加の対価を得られる可能性がある。

 

●キーマン条項のデメリット(売り手側)
・一定の期間、時間が拘束されてしまう。
・当初想定していた以上の役割を任されてしまい、思うような成果が出せない可能性がある。

 

 事業をスムーズに引き継ぐためにも、キーマンにはできるだけ残ってほしいと買い手は考えます。

 

 一方で売り手側のキーマンはいろいろな考えを持っています。「残ってもいい」という人もいれば、「できれば残りたくない」人もいます。

 

 どちらにしても、残るからには一定のインセンティブは欲しいと考えるのが普通です。

 

 特にオーナー経営者がキーマンなのであれば、売却後は自分の会社ではなく他人が所有する会社に勤めることになるわけですから、何らかのインセンティブがなければ通常は一生懸命働こうという気が起きません。

 

 そこでポイントとなってくるのが、次に説明する「アーンアウト条項」です。

 

■アーンアウト条項

 

 アーンアウト条項とは、M&Aの実行後の一定期間内に会社が目標としていた業績を達成した場合に、買い手企業が売り手側へ「追加の対価」を支払う条項のこと。

 

 例えば、売り手を2億円で売りたいと考えていたとします。しかし、買い手としては足元の業績を考慮すると、1.5億円しか出せないと判断しました。売り手と買い手で目線がずれているわけです。

 

 そこで、ひとまず1.5億円で合意し、キーマン条項、アーンアウト条項の付与によって条件を調整します。

 

 一例として「キーマン(経営者)が一定期間会社に残り、○年後に○円の利益を上げられたら、残り5,000万円を払う」という条件を加えます。

 

 キーマン条項で売り手のキーマンを縛る代わりに、アーンアウト条項を設けてインセンティブを付与するということです。

 

■キーマン条項の留意点

 

 キーマン条項は「ロックアップ」とも呼ばれます。そして、よくロックアップを付けられた社長は、「死んだ目をしている」と言われることがあるようです。つまり鎖につながれるということ。その本質は、自由を売ってお金に代えるようなものだと思います。

 

 買い手は、契約にキーマン条項を入れることで、入れないよりも高い価格で買ってくれます。しかしその代価として、売り手オーナーの一定期間の自由が奪われてしまいます。

 

 売った後にきれいさっぱり会社経営から手を切り、次のステージに進みたいと思ったら、キーマン条項を断ることも大事な決断です。

 

 そして、より高く売りたいし、売った会社でまだ達成したい目標がある、あるいは後継者を育ててから退任したいというのであれば、アーンアウト条項による目標・インセンティブの設定を交渉できると覚えておいてください。