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M&Aにおける「表明保証」とポイント

 ここからは最終契約書の説明に入っていきます。

 

 最終契約書における重要な条項は四つあります。「表明保証」、「キーマン条項」、「アーンアウト条項」、そして「チェンジオブコントロール条項」です。

 

 それぞれのポイントを説明していきます。

 

■表明保証とは?

 

 まずM&A特有の条項である「表明保証」です。

 

 M&Aにおける表明保証とは、買収対象会社の法務・税務・財務・労務・事業内容などに関する一定の事項が真実かつ正確であることを、売り手が買い手に表明し、保証するという条項です。

 

●買い手と売り手の利害は対立する
 表明保証に関して、買い手と売り手の利害は対立します。

 

 買い手サイドは、売り手のことをどんなに調査してもわからない部分はあるので、「後々の問題発生に備えてできるだけ保証してほしい」と言ってきます。

 

 一方の売り手サイドは、後から損害賠償を請求されるリスクを避けたいので、「できるだけ保証したくない」と考えます。

 

 最終的にはどちらが優位に立っているか、主導権を握っているかで、表明保証の内容は変わってきます。

 

 買い手候補の行列ができていて売り手優位だったら、保証内容が少なくなるよう強気で交渉ことができますが、反対に1社からしか意向表明書を入手できていない状況では、買い手サイドの指定する表明保証の条件が通りやすくなります。

 

 

■表明保証条項の具体例

 

 表明保証には、売り手と買い手の両社が表明保証するもの、売り手だけが表明保証するものの大きく二つに分かれます。それぞれの具体例を以下に挙げています。

 

【表明保証条項の具体例】――売り手と買い手それぞれが表明保証するもの

 

◎契約締結の能力・権限
 契約当事者が契約締結能力及び権限を有する正当な権利者であることを確認します。

 

◎契約締結における法令等の違反の不存在
 契約の締結において会社法、その他の法令、社内規則上必要な手続き等をすべて履行済みであることを確認します。

 

 取引先への通知義務がある場合、その手続きが履践されていることを確認します。

 

◎契約締結に必要な許認可等の取得
 契約締結に必要な官公庁への届け出等、必要とされる手続きが履践されていことを確認します。

 

◎反社会勢力からの断絶
 契約当事者が反社会勢力またはそれに関連する者ではないことを確認します。

 

【表明保証条項の具体例】――売り手が表明保証するもの

 

◎対象株式の所有と担保権等の不存在
 売り主が株式を真正に所有していること(担保設定の有無)や、ストックオプション等で株式の数が将来変更になるような決議等がなされていないことを確認します。

 

◎財務諸表・税務申告書の適正性
 対象会社の財務諸表、計算書類は、一般的に認められた会計基準に従って作成されていることを確認します。

 

◎債務及び負債、偶発債務の不存在
 対象会社に簿外債務や偶発債務の存在がないことを確認します。

 

◎労務問題の不存在
 労働紛争は存在しないこと、社会保険を適法に履行していること、未払い残業代等は存在しないこと等を確認します。

 

◎債務不履行の不存在
 対象会社が締結している取引先との契約書上において、債務不履行が発生していないことなどを確認します。

 

◎法令遵守、許認可、紛争に関すること
 対象会社が関係する法令や許認可に違反しておらず、また訴訟等の係争・紛争中でないことを確認します。

 

■表明保証保険の活用or上限(期間)設定

 

 売り手としては、「こんな内容を保証したくない」と思う項目もあるのではないでしょうか。

 

 そこで、もし売り手が主導権を持っている場合には、保証内容に「限定」を付けるという実務慣行があります。

 

 例えば、表明保証に記載された事項が発覚した場合に賠償するという項目に、「譲渡日後1年間に限り」と期間を限定するのです。または、「負担する賠償額の上限は譲渡価格まで(あるいは譲渡価格の○%まで)とする」といった一文を設けます。これにより、想定以上に賠償額が膨らんでしまうことを防げます。

 

 売り手の立場が優位だと、「賠償額の上限は譲渡価格の50%まで」などに設定できます。また、表明保証の項目自体を交渉により外すことができます。

 

 最終契約書の最後に「表明保証除外事項」を列記する方法もあります。

 

 このようにして、ともかく賠償の責任を少しでも逃れるように交渉し、そのうえで最終契約書を作成することをおすすめします。

 

 これを知らずに相手の言いなりで契約してしまうと後から思わぬ問題が発生し、莫大な損害賠償を求められることもあります。非常に重要なポイントなので、ぜひ心に留めておいてください。