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M&Aの契約に関する書類あれこれ(Part.2)

■意向表明書(LOI)とは?

 

 一つ一つの書類について詳しく解説していきます。まずは意向表明書(LOI:Letter of Intent)です。

 

 M&Aにおける意向表明書とは、M&Aの交渉段階において、買い手企業が売り手企業に対して、事業の譲り受けや会社買収の意向を示すために提出する書面のことを指します。

 

 主な記載内容は次の通りです。

 

【意向表明書の記載内容】
◎企業概要
◎M&Aの目的
◎M&Aのスキーム
◎買収価格とその算定根拠、価格修正要因
◎M&A後の方針
◎売り手企業の役員や従業員の処遇
◎M&Aスケジュールに関する希望
◎デューデリジェンスについての希望
◎独占交渉権についての希望
◎法的拘束力がない旨

 

●ウェットな案件とドライな案件
 このうち、ウェットな案件の場合には、「M&Aの目的」と「M&A後の方針」「売り手企業の役員や従業員の処遇」の三項目に留意が必要です。

 

 ウェットな案件とは、譲渡価額などの経済的な側面よりも、経営方針や「想い」を引き継いでもらえるか、従業員の雇用が維持されるか等を売り主が重視している案件のこと。事業承継案件に多い例です。

 

 そのような案件では、売り手は売却価格よりも「従業員を大事にする」「自社のサービスを世に残す」といった側面を重視します。

 

 買い手としては、引き継いだ従業員をどのように処遇して大切にするかを意向表明書でアピールします。それが売り手の経営者を安心させることにつながります。

 

 なお、ドライな案件の場合には何よりも価格が重要です。買収価格を明示して他社よりも低いと困るので、「1.5~2億円」というように幅を持たせてレンジで表記することもあります。

 

●意向表明書を入手する意義
 意向表明書は省略されることもありますが、状況によっては、必ず提出してもらった方がいいこともあります。「○月○日までに意向表明書を出してください」と買い手候補に伝えておくとよいでしょう。

 

 では、意向表明書を買い手から入手した方がいい理由は何でしょうか。

 

 一つは、初期的調査の長期化を回避するためです。M&Aを実行するにあたり、買い手が売り手に対して聞きたいことは山ほどあります。そこで、膨大な質問リストが送られてくることがあります。

 

 しかし売り手にしてみれば、まだ基本的な条件について合意もしていないのにそれらの質問にいちいち答えていては、時間がいくらあっても足りません。せっかく苦労して回答しても、買い手が「やっぱりやめた」と交渉を中断する可能性も十分にあります。

 

 そこで売り手は、交渉が長くなることを防ぐためにも、「これ以上聞きたかったら意向表明書を出してください」と伝えるわけです。そして意向表明書に書かれた買収条件次第では交渉をストップする判断もできます。

 

 もう一つの意義は、買い手に行列を作らせるためです。少しでも高く売るためには、買い手候補が1、2社よりも、たくさんいる状況の方が良いはずです。買い手がたくさんいれば、売り手側では価格はもちろんその他の条件も比較検討して、その中から一番良い条件の相手と交渉を進められます。

 

 複数社の中から最適なオファーを比較検討するためにも、意向表明書を提出してもらうことが大切なのです。

 

 

■基本合意書(MOU)とは?

 

 次に、基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)です。

 

 基本合意書には、売り手と買い手候補の間で合意できたことを記載します。記載内容は以下の通り。意向表明書と重複する部分も多いです。

 

【基本合意書の記載内容】
◎買収の対象
◎M&Aのスキーム
◎買収価格
◎役員や従業員の引き継ぎと雇用条件
◎売り手企業の役員や従業員の処遇
◎今後のスケジュール
◎デューデリジェンスに関する事項
◎独占交渉権・違約金
◎秘密保持義務
◎重要な資産の処分等に関する事項
◎クロージングの前提条件
・許認可
・契約上の地位の移転
・不採算事業の撤退
◎第三者への公表について
◎基本合意の有効期限
◎法的拘束力の有無
◎費用負担

 

●基本合意書を締結する意義
 基本合意書を締結する意義は主に4つあります。

 

 一つめが、買収価格の上限設定です。基本合意書に記載される買収価格または価格レンジについては、DDの結果によって変わる(下がる)可能性はあるものの、買い手候補にとっては買収価格の上限を設定できるという意義を持っています。

 

 基本合意書の後に買い手がDDを行い、その結果、「買収価格を上げましょう」となることは基本的にはありません。「基本合意書の金額でOK」となるか、あるいは「こんなリスクが見つかったので値引きしてください」と交渉が入るかのどちらかです。

 

 したがって、基本合意書に記載された価格が実質的には最終的な売買価格の上限となります。

 

 売り手としては、DDの過程で指摘される事項をできるだけゼロにして、基本合意書の金額で最終契約を締結できるように準備をすることが大切です。

 

 基本合意書を締結する二つめの意義は、独占交渉権の設定です。すでに何度か説明しましたが、基本合意書の後、買い手は費用を負担してDDを行います。高いお金を出して調査をしているのに、売り手と他社とが交渉してしまっては困るわけです。それを防ぐために、基本合意書では買い手に対して独占交渉権を与えます。

 

 三つめの意義は、スケジュールを明確にすること。

 

 DDから最終契約までの期間は、売り手企業が小規模なら1カ月、ある程度の規模なら2~3カ月が一般的です。その期限を明確にすることで、買い手がDDにダラダラと時間をかけすぎてしまうことを防ぐわけです。

 

 四つめの意義は、費用負担・違約金の明確化です。このあたりは揉める可能性の高い部分なので、基本合意書の上で明確にすることが大切です。

 

 例えば、「DDの本調査にかかる費用を、買い手の負担とする」「主要な取引先の倒産や財政状態の著しい悪化など、重要な変更があった場合には買い手・売り手ともに基本合意を解除できる」「本項調査によって重大な影響を及ぼすような事象が判明した場合には解除できる」といった文言を記載します。

 

 

 続く