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M&Aの契約に関する書類あれこれ(Part.1)

 それではいよいよM&Aにおける実行フェーズについて解説していきましょう。

 

 売り手と買い手の間で最終的に交わされる契約書(株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など)のなかには、M&A特有の条項が含まれているケースが多く、きちんと理解せずに契約してしまい後悔するオーナーの話をよく耳にします。

 

 また、最終契約書の締結に至るまでは数か月の検討期間を要することから、その間もいくつかの契約や合意書を交わします。

 

 そこで本章では、契約で後悔することがないよう、オーナー自身が理解しておくべきM&Aに関連する契約書等の概要と留意点を紹介します。

 

 まずは基本的な契約条項の意味を解説し、その上でどのように交渉を進めるのが売り手にとって最善なのか、ベストシナリオの参考例とともに解説していきます。

 

■M&Aにかかる契約書の種類

 

 M&Aのプロセスでは、トップ面談や買い手によるデューデリジェンス(DD)といった「交渉フェーズ」を終えると、次に「実行フェーズ」に入ります。いよいよ最終段階です。

 

 実行フェーズでは、買い手から契約における最終条件の提示があり、売り手がこれを確認・調整します。そして、その結果を受けて本契約の作成・締結へと進みます。

 

 最終契約書に織り込まれる内容について十分に理解して、最適な契約書を作成できるよう準備をしましょう。

 

 また、最終契約の前段階では、意向表明書と基本合意書を取り交わすプロセスもあります。これらの契約書類についても合わせて説明します。

 

●M&Aには三つの契約書がある
 M&Aにかかる契約書類には「意向表明書」「基本合意書」「最終契約書」の3種類があります。それぞれの目的や取り交わすタイミングについて簡単に説明します。

 

 三つのうち「意向表明書」は、買い手候補が売り手に対して希望を伝えるための書類です。通常は、トップ面談後に提出されます。

 

 二つめの「基本合意書」は、買い手から意向表明書が提出された後、買い手・売り手の双方でおおまかな条件を協議して、合意に至った場合に作成される契約書です。

 

 この基本合意書が取り交わされると、買い手による詳細な検討、DDがスタートします。基本合意書には一般的に独占交渉権の期間が明記され、売り手は基本合意書を取り交わしてから一定期間、他社とM&Aの交渉をすることができません。

 

 DD・株価算定が終わると、最終的な条件について買い手・売り手の双方で協議が行われます。そして合意形成ができたら、その内容を書面に落とし込んだ「最終契約書」を作成・締結します。

 

 なお最終契約書の名称は、実行するスキームによって変わります。株式譲渡を行う場合には「株式譲渡契約書」、事業譲渡を行う場合には「事業譲渡契約書」となります。

 

●契約書の法的拘束力
 三つの書類のなかで、意向表明書には法的拘束力がありません。一方的に意向を伝えるためだけの書類だからです。

 

 一方で基本合意書は、お互いの合意内容を含んでいる部分も一部あり、その点に関しては法的拘束力があります。具体的には独占交渉権や秘密保持などの部分です。そのため、もし独占交渉権を破って他社と交渉をしてしまったら、契約書の内容に従ってペナルティが発生します。

 

 三つ目の最終合意契約書には、当然ながら法的拘束力があります。

 

●一部の契約書は省略されることもある
 M&Aの実務では、意向表明書や基本合意書を省略するケースもあります。例えば買い手候補が1社しかいない場合には、意向表明書を提出せずに条件交渉がスタートし、合意形成ができたら基本合意書を取り交わすこともあります。

 

 また、意向表明書に記載された条件が明確で、それに対して売り手が合意した場合には、基本合意書を飛ばして最終契約書のドラフト作りに入ることもあります。

 

 なお最終契約書だけはどのケースでも必ず締結します。

 

 

 続く