会社分割の活用事例(Part.2)
■税務上の「適格要件」とは?
さて先ほど、「このスキームを使えるのは適格会社分割(税制の適格要件を満たした分割)」に限ると説明しました。
分割した会社を売買する際、税務上の適格要件に該当するかしないかで、買い手・売り手ともに税務処理の方法が変わってきます。特に売り手は、適格要件に当てはまらない売却を実施してしまうと、多額の税金が発生します。
余計な税金を払わないためにも、会社分割における税務上の適格要件について知っておく必要があります。
①分割型会社分割(ヨコの分割)の適格要件
分割型会社分割のスキームで適格分割(税務上の適格要件を満たす分割)と認められるためには、下記の要件に当てはまる必要があります。
大きなポイントは「継続保有要件」です。既存のX社を分割する前に、X社とオーナーの間に完全支配関係があり、オーナーがヨコの分割によってY社を設立した後も、継続してY社を支配することが見込まれている場合は「適格分割」と認められます。
一方、継続支配が見込まれない場合は「非適格分割」とされます。
では非適格分割になると税務上の処理はどうなるのか。それをまとめたのが次の図です。
図表
右側の列に注目してください。「非適格分割型分割」に該当する、分割法人(事業を切り出す法人。ケーススタディのX社)に対して、法人税が発生するとともに、分割法人の株主には「みなし配当」が発生します。
これが非常にやっかいです。例えば、先ほどの分割型会社分割のケースで、分割したY社を2.5億円で売り、これが「非適格分割型分割」とみなされたとします。
すると税務上ではこの取引を「オーナーは2.5億円分の配当を受け取った」と解釈します。配当にかかる税率は給与所得なと一緒で、最高税率55%です。つまり2.5億円の半分以上が税金で持っていかれることになります。
したがって「ヨコの分割」を使う場合には、継続保有要件を満たし、適格分割型分割を適用させることが非常に重要なのです。
分割してすぐに売ると、継続保有要件を満たさないと判断されてしまいます。
そのためもしこのスキームで売却を検討するのなら、少なくとも分割してから1~2年は売却せずに会社の株式を保有し続けた方がいいでしょう。逆にいえば、売却する2年前には会社分割を実施しておくということです。
②分社型会社分割(タテの分割)の適格要件
次に、分社型会社分割の適格要件です。この場合も以下のように「継続保有要件」を満たす必要があります。
では非適格分割になると税務処理はどうなるか。それをまとめたのが次の図です。右列の「非適格分割型分割」にご注目ください。
ポイントは、ヨコの分割とは違って、「見なし配当」という概念がないこと。これは売却した株式の代金を受け取る対象が、個人ではなく法人だからです。
一方で、分割法人に対して課税は発生します。分割承継法人を時価評価して、その含み益に対して法人税を納める必要があります。
先ほどの「タテの分割」のケーススタディをもう一度ご覧ください。
分割したY社を2.5億円で売り、Y社の簿価純資産=譲渡原価1.2億円と、アドバイザリー報酬0.1億円を差し引いて、株式譲渡益は1.2億円となりました。この株式譲渡益に対して、33%法人税がかかりました。これは「税制適格」の場合です。
一方、この分割が「税制非適格」とみなされると、分割したY社の取得原価を「時価」で計算する必要があります。
分割後すぐに売ったわけですから、その会社の時価は売却価格と同じ2.5億円にしなければなりません。
譲渡原価1.2億円を2.5億円に時価評価することで含み益が発生し、それに対して法人税が課税されます。ただし、株式譲渡益はないので課税は発生しません。
つまり、税制非適格だったとしても、適格だったとしても、タテの分割ならばほぼ同じメリットが得られるということです。