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会社分割の活用事例(Part.1)

■会社分割のスキームは主に二つ

 

 会社分割にも複数の類型がありますが、M&Aの実務において使われる代表的なスキームには、「分割型会社分割」と「分社型会社分割」があります。

 

●分割型会社分割
 分割型会社分割は、分割対価が「分割法人の株主」に交付される会社分割の方法を指します。次の図をご覧ください。

 

 

 X社のオーナーは、X社でA事業・B事業を展開しています。このうちB事業だけを切り離して売りたいと考えています。

 

 この時、B事業を営む新設法人Y社を設立し、Y社の株式をオーナーに発行します。そしてM&Aの際は、買い手企業にY社を株式譲渡により売却します。

 

 これが「分割型会社分割」です。分割した会社がヨコに並ぶため「ヨコの分割」と言われます。

 

●分社型会社分割
 次に、分社型会社分割です。これは分割対価が「分割法人」に交付される方法を指します。

 

 

 こちらもB事業を切り離すために新会社を設立するまでは同じなのですが、設立したY社株式を株主ではなく、X社に発行します。この時、X社とY社は親子の関係になります。

 

 そしてM&Aの買い手企業にはY社を株式譲渡します。分割会社がタテに並んでいるので、「タテの分割」と呼びます。

 

■会社分割のケーススタディ

 

 では次の事例をもとに、それぞれの会社分割スキームで手元に残る財産はどのように変わってくるのか、計算してみましょう。

 

 

●分割型会社分割を実施した場合の手残り
 まずは分割型会社分割(ヨコの分割)で手残り額をシミュレーションします。実際に計算したのが下の図です。比較のために、右側には株式譲渡を行った時の手残り額を記載しています。

 

 

 分割したY社を事業価値2.5億円で売却したとすると、売却収入は2.5億円、譲渡原価は2.5億円の5%にあたる0.1億円、アドバイザリー報酬も0.1億円で、この結果として株式譲渡益は2.3億円となります。この株式譲渡益に対して20%、4,500万円の税金が発生します。

 

 これらの結果と、既存の会社に残した2億円の余剰資金と合わせると、

 

 売却収入2.5億円-税金0.45億円-報酬0.1億円+余剰資金等2億円=3.9億円

 

 最終的な手残りは3.9億円となりました。株式譲渡(図の右側)と比べると、4千万円も手残りが増える計算になります。

 

 ただ注意したいのは、このスキームが使えるのは適格会社分割(税制の適格要件を満たした分割)に限るという点です。適格要件については後ほど説明します。

 

●分社型会社分割を実施した場合の手残り
 次に分社型会社分割(タテの分割)でシミュレーションしてみます。

 

 

 Y社株式を2.5億円で売る点はタテの分割と同じです。異なる点は、売却収入を得る対象者です。Y社株式の所有者はX社のオーナーではなくX社なので、売却収入の2.5億円はX社が得ることになります。

 

 この時の譲渡原価はいくらでしょうか。分割型会社分割をした会社を売却した場合には、その売却対象会社の時価純資産の額で自社株式を発行し、それが原価となります。つまり時価純資産=譲渡原価なので、このケースの譲渡原価は1.2億円です。

 

 売却収入2.5億から、譲渡原価1.2億円、アドバイザリー報酬0.1億円を差し引くと、X社が得る株式譲渡益は1.2億円となります。

 

 この1.2億円に対して、売却収入を得たのは法人ですから法人税の支払いが発生します。法人実効税率33%とすると、税額は0.4億円です。

 

 この結果と、既存の会社に残した2億円の余剰資金と合わせると、

 

売却収入2.5億円-税金0.4億円-報酬0.1億円+余剰資金等2億=4億円

 

 売却後の最終的な手残りは4億円となりました。

 

 以上をまとめると、

 

・株式譲渡    手残り3.5億円
・分割型会社分割 手残り3.9億円
・分社型会社分割 手残り4.0億円

 

という結果になりました。スキームの違いによって手残り額にこれだけの違いが出るのです。

 

 続く