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会社売却スキームと税務(Part.1)

■「のれん」とは何か?

 

 M&Aを検討するうえで必ず知っておきたい会計用語に「のれん」があります。

 

「のれん」は主に買い手企業の会計や税務に関係してくる項目ですが、売り手企業にとっても無関係とはいえません。「のれん」によって買い手企業の会計・税務にどういう影響があるかを把握し、買い手側にもメリットがある売買のスキームを提案でき、結果的にスムーズに交渉が進みます。

 

「のれん」を知っていると知らないのでは、売却した後の手残りが大きく変わってくることもあります。概要だけで構わないので理解してください。

 

●受け入れた資産・負債と買収額の差が「のれん」
 のれんとはそのまま、店の軒先にかけられている暖簾(のれん)のことを意味します。

 

 例えば無名店と老舗有名店の二つの飲食店が並んでいたとして、あなたはどのような印象を持つでしょうか。おそらく老舗有名店に対して、「値段は張るかもしれないけど、きっと美味しい店だろう」と期待感を抱くはずです。

 

 それは、長年積み重ねてきた実績・歴史や、味に対する信頼(ブランド)、接客サービスに対する安心感、価格に対するお値打ち感など、他店との違いを、老舗有名店の「のれん」から感じ取っているからです。

 

 会計でいう「のれん」もこれと同じで、目には見えないものの、同業他社と比べて優位性のある要因(超過収益力)のことを意味します。

 

 M&Aにおける「のれん」も実質的には同じですが、より厳密に言うと「買収額と純資産額の差がのれん」と定義されます。

 

 次の例をもとに説明しましょう。ある会社が買収を検討している売り手企業の貸借対照表です。この企業の資産は10億円、負債は7億円(うち金融機関からの借入が1億円)で、純資産は3億円となっています。

 

 

 この会社は成長途上にあるので、事業価値の計算にはEV/EBITDA法を使うことにします。

 

 EBITDAは1億円となり、類似企業のEV/EBITDA倍率を5倍と仮定すると、事業価値は5億円と算定されました。

 

 事業価値5億円からネットデットの1億円を差し引いた株主価値は4億円となったので、買い手企業は4億円の価格を提示し、この会社を買収しました。

 

 つまり、時価純資産3億円の会社を、4億円で買収したということ。この時に生じた、時価純資産と買収価格との差の1億円が「のれん」です。

 

 なお、時価純資産額よりも買収額の方が小さくなるケースもあります。その場合は「負ののれん」と呼ばれます。
 業績が悪化傾向にある、または、多額の賠償請求が発生するリスクがあるといった企業を買収する場合には、マイナスの影響が買収額に反映されることで、負ののれんが発生します。

 

●税務上は「資産調整勘定」
 会計上の「のれん」のことを、税務上では「資産調整勘定」と呼びます。その違いは次の図の通りです。

 

◆「のれん」と「資産調整勘定」

 

 

 会計上ののれんと税務上ののれん(差額負債調整勘定)の大きな違いは、償却のルールです。

 

 会計上ののれんは、20年以内の定額法で償却するルールになっています。一方で税務上ののれんは、強制的に5年定額償却と決まっています。任意ではなく強制ですから、必ず償却しなければならないということです。

 

 のれんが発生する要件にも違いがあります。
 ポイントは、上記表の差額負債調整勘定に記載されている「非適格合併、非適格分割、事業譲受」という項目です。

 

 これはつまり、税制の定める要件に当てはまらない(非適格な)合併や分割、事業譲受の場合に限ってのれん(資産調整勘定)が発生するということです。

 

 反対に、税制に適格する合併の場合は資産調整勘定が発生しません。合併における適格の要件と、売り手企業への影響については、次に説明する「会社分割の活用事例」のコラムで説明します。

 

 続く