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売り手が有利な会社売却のスキーム(Part.3)

■ケーススタディ(3) 持株会社を作って水平型統合

 

 同業他社をロールアップ(連続的に買収)して売る方法があります。例えば、1人親方、あるいは社員数名程度の電気工事業者の場合、1社で売ろうと思っても小規模すぎて買い手がつきにくいという問題があります。

 

 そこでまずは、同業他社を何社か買収し、大きな仕事を受注できる企業規模にします。すると、大手企業が買い手候補に名乗りを上げてくれるようになるので、売却を進めやすくなるわけです。これがロールアップ戦略です。

 

 しかし、このような業種がロールアップで他社を買い進めていく際に一つ問題があります。買収対象会社の社員の離反を招くおそれがあるということです。

 

 職人や士業など専門家の多くは、仕事に対するプライドが高く、職場環境を重視します。どこかの知らない会社に買収され、「経営方針が合わない」「社風が違う」「子会社で働きたくない」などの不満を抱くようになると、すぐに辞めてしまいます。したがって、専門家が多く所属している会社の買収は慎重に行う必要があります。

 

●社員の離反を防ぐための水平統合
 この問題を解決するスキームとして「株式移転」があります。

 

 買い手企業が、親会社となる持ち株会社(ホールディングカンパニー)を株式移転によって新設し、その新設会社の傘下に分割された会社と、新たに買収した会社を入れるというスキームです。

 

 

上記の図をご覧いただくとわかりやすいでしょう。図の左側のように、単なる株式譲渡で垂直型に統合した場合には、買収した会社とされた会社は親子の関係になります。買収された会社の社員は「自分たちはA社の子会社になったのか!」と反感を持つかもしれません。

 

 しかし、図の右側のように水平型統合にすることで、買収された社員は「A社とうちは同じグループの傘下にいる対等な立場」という認識を持つことになり、納得度の高い統合が実現できます。

 

 加えて、新たにグループ入りした会社の経営陣に対して持ち株会社の株式を一部渡せば、「グループ一丸となって成長しよう」というモチベーションが生まれ、買収後の融合が進みやすくなります。

 

 職人に限らず、士業、技術者、医師、ケアマネージャーのような専門家は、プロ意識が高く、転職しやすい職種です。そのような人材を抱えている企業を買収するスキームとして株式移転は有効です。

 

 小規模すぎて売りづらい会社を経営しているオーナーは、この株式移転スキームを使って同業他社を何社かロールアップして買収し、価値が高まったところで持ち株会社を含めてグループ丸ごと売却する、という計画を立ててみるのもいいでしょう。1社で売るよりも大きな売却益を狙うことが可能となります。

 

■三つの視点でスキームを検討する

 

 以上のように、M&Aのスキームにはいくつもあります。自社の状況に応じて、どんなメリット・デメリットがあるかを把握したうえで、実施するスキームを検討していくことになります。

 

 M&Aのスキームを検討するうえで必要となる視点には、次の三つがあります。会社法、会計、財務の視点です。

 

●会社法の視点
 M&Aの手続きは、会社法の枠組みのなかで定められています。
 この手続きを理解して、法律上の瑕疵がないように進めていかなければ、債権者から訴えられたり、取引無効になったりというリスクがあります。

 

 例えば、契約書の内容や選んだスキームによっては、債権者保護手続きが必要なものもあります。契約上で取引先への通知義務が課されている場合もあります。
 弁護士や司法書士とよく相談しながら進めていく必要があります。

 

●会計の視点
 買い手企業が気にするのは、「そのM&Aを行うことで、自社の財務諸表にどのようなインパクトが生じるのか」です。

 

 買い手が上場会社であれば、M&A後に出すプレスリリースに当期業績に与えるインパクトを記載する必要があり、その点をアドバイザーと相談しながら最終的な投資判断を行います。
 売り手としては、買い手企業のそのような視点を理解したうえで、交渉がスムーズに進むよう事前準備に臨むことが大切です。

 

●税務の視点
「課税の公平」という大原則の下、どのような会計処理をしたとしても、かかる税金は平等になるようにルールが定められています。

 

 しかし、これまでも説明したように、M&Aのスキーム次第で支払う税金額は変わってきます。最終的に多くの手残りを得られるように、税務の視点から売却スキームを検討していく必要があるでしょう。