経営者が理解するべき財務会計のポイント(Part.3)

■貸借対照表の注目すべきポイント
M&Aにかかわる人が財務諸表を見る時、どこに注目するのでしょうか。
●繰越利益剰余金
私の場合は真っ先に、純資産の部の「繰越利益剰余金」を見ます。この項目を見るだけで、累積でどれだけ儲かっているのかがわかるからです。
繰越利益剰余金が大きい会社もあればマイナスの会社もあります。資本金は10万円でも、繰越利益剰余金が1億という会社もざらにあります。それは過去に得た1億円の利益が積み上がっている状態なので、少ない元手で非常に効率のいい成果を出してきた会社と考えられます。
繰越利益剰余金がマイナスの場合は、設立以来の累積利益がマイナスになっているわけですから、株主が出資したお金が目減りしている状態、つまり非常に悪い経営状態を意味します。
●自己資本比率・流動比率
次に、各項目から自己資本比率や流動比率を割り出し、確認します。
自己資本比率は、「純資産÷総資産」で算出される数値で、高いほど健全な財務状態を表し、低いほど倒産する可能性が高いことを意味します。有利子負債が多く、純資産の額を上回っている場合には、自己資本比率が50%を下回ります。
自己資本比率の適正水準は業界によって異なります。メーカーなど大きな設備投資を必要とする会社では、多額の銀行借入を行っていることが多いため、自己資本比率は低くなります。
一方でIT会社やサービス業の会社では、多額の銀行借入を必要としないため、自己資本比率が高い傾向にあります。
流動比率は「流動資産÷流動負債」で算出され、この数値が高いほど短期的な支払い能力が健全な状態にあるといえます。
●有利子負債
有利子負債(短期借入金+長期借入金)と現預金の額を比べて、現預金の方が上回っている場合は、実質無借金の健全経営と判断します。
●オフバランス項目
オフバランス項目とは、保険解約返戻金や退職給付債務、未払給与・賞与、リース債務など、貸借対照表に掲載されていない項目のことで、これらを確認することも買い手にとっては重要です。
■「欠損」や「債務超過」状態の会社はどうM&Aする?
繰越利益剰余金がマイナスであるものの、純資産の部がプラスである状態を「資本の欠損」と呼びます。また、繰越利益剰余金がマイナスで、純資産もマイナスになっている場合、この状態を「債務超過」と呼びます。
債務超過になると、基本的に銀行からの借り入れができなくなります。M&Aの実務においては、特に上場会社は債務超過の会社を買うことはほぼしません。
そこでM&Aアドバイザーは買い手企業に対して、増資を引き受けてくれるよう交渉します。増資をして純資産を増やし、債務超過を解消したうえで、買い手企業の傘下に入り、経営の再建を一緒にやっていくという方法を採ることがあります。
また、赤字や債務超過で、会社としてはほぼ価値がつかない場合、事業譲渡を検討することもあります。特定の儲かっている事業だけを売却するスキームです。
それにより借入金が全部返せればいいのですが、返せない場合には、事業がなくなり借入金だけが残ることになります。
したがって、そのような事業譲渡のスキームは銀行に拒絶され、実行できないことがあります。
このような事業再生案件の場合、経営再建を目的とする再生型M&A、いわゆる「第二会社方式」という企業再編の方法が採用されることがあります。
「第二会社方式」とは、事業譲渡や会社分割により「優良事業(GOOD事業)」と「不採算事業(BAD事業)」を切り離し、優良事業だけを存続させることを目的とした企業再生スキームです。詳しくは、別のコラムで解説します。
このように欠損や債務超過の場合であっても、第1章及び第3章で説明している様々なM&Aのスキームを活用して、経営再建を図ることができるということは、経営者として知っておいた方が良いでしょう。
続く