株式価値を算定する三つの評価アプローチ手法とは?(Part.3)
■三つの評価アプローチと留意点
株価算定の実務では次の三つのアプローチが使われます。
●インカム・アプローチ――「将来いくら儲かるのか」
評価対象会社から期待される利益やキャッシュフローに基づいて価値を評価するアプローチ方法です。
●マーケット・アプローチ――「相場はどうなのか?」
上場している同業他社や、評価対象会社で行われた類似取引事例など、類似する会社、事業、取引事例と比較することで相対的な価値を評価するアプローチ方法です。
●ネットアセット・アプローチ――「いくらの財産があるのか?」
主として評価対象会社の貸借対照表の純資産に記載されている内容に着目して価値を評価するアプローチ方法です。
この三つのうち、企業価値評価を取り巻く環境(投資家の状況や会社の状況等)、業種的な特性などを考慮して対象会社に使う評価アプローチを決定します。その際の留意点について日本公認会計士協会の『企業評価ガイドライン』に書かれている内容をかいつまんで説明します。
留意点①評価対象会社のライフステージと評価アプローチ
対象会社のライフステージ(成長ステージ)ごとに選択すべきアプローチが異なります。例えば、3期以上連続で右肩上がりに成長している会社に対して、純資産に着目する「ネットアセット・アプローチ」を使うと、将来の成長可能性が評価に反映されず、過小評価につながる可能性があります。
そのような会社の将来の収益獲得能力をきちんと評価に反映させるためには、「インカム・アプローチ」や「マーケット・アプローチ」を用いるべきでしょう。
一方で、成熟期に入り、売上が増えたり減ったりを繰り返しているような会社に対しては、一般的には「マーケット・アプローチ」を使います。具体的には、直近3年~5年平均の利益と類似業種の売買事例に基づいて評価をします。
また、業績が悪化し衰退期に入っている会社の場合、あるいは赤字会社の場合には、清算を前提とした「ネットアセット・アプローチ」を採用することが多いといえます。
留意点② 会社の継続に疑義があるようなケース
「インカム・アプローチ」や「マーケット・アプローチ」は会社の継続を前提とした企業評価であり、継続性に疑義があるようなケースにおいては馴染まないとされます。そのため、「ネットアセット・アプローチ」を採用することになります。
留意点③ 知的財産等に基づく超過収益力を持つ企業
「ネットアセット・アプローチ」では、特許などの知的財産の価値が評価されない可能性があります。
特許などを使って収益を上げている会社の場合は、超過収益力(個別の無形資産)を価値評価に反映させやすい「インカム・アプローチ」などを検討すべきです。
留意点④ 類似上場会社のない新規ビジネス
まったく新規事業で、類似上場会社が存在しない、または類似取引事例がないようなケースにおいては、「マーケット・アプローチ」による価値評価には限界があります。
このように、株式価値の算定には主に3つの評価アプローチがあり、それぞれの評価手法によって株式の算定結果は異なります。株価算定の実務においては、専門家は、それぞれの会社の特性や成長ステージを考慮して評価アプローチを決定し、それぞれの評価アプローチに則り株式価値を算定します。
売り手企業のオーナー社長は、プロと同じような知識を身につける必要は勿論ありませんが、買い手が専門家に株価算定を依頼した際にどのような評価がなされるのか大枠を理解しておくことが大切です。
3回に渡り企業価値算定の概要を説明し、そのポイントや留意点について解説をしてきました。また、思わぬ高値がつくようなケースについても具体例をあげました。
オーナー自身が企業価値算定の概要を理解していれば、株式の売買価格について売り手と買い手の目線が意図せずに大きく食い違うということがなくなり、オーナー社長は希望売却額で売却するためにどのような準備をなすべきか、あらかじめ計画や目標を立てることができるようになります。
企業価値算定に興味のある経営者様はお気軽にご相談ください。