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株式価値を算定する三つの評価アプローチ手法とは?(Part.1)

 今回は株価算定と評価アプローチ方法について解説していきます。

 

 実際の株価算定の実務は専門家に依頼してもらって構いませんが、経営判断として現時点の会社の価値や評価アプローチ手法をご自身でも理解しておくと、M&Aをより経営戦略に取り入れやすくなるはずです。

 

 「理想の条件以上にならない限り売らないM&A戦略」を採用し、理想のEXITを果たすためには、現在の会社の株式価値を把握するのみならず、どれぐらいの業績にすればいくらで売れるのかを知っておくことが大切です。

 

 そのためには、本コラムで解説する株価算定の実務、つまり、外部の専門家に依頼した場合にどのようなロジックで会社の価値を評価するかについて、経営者自身がある程度は理解しておく必要があります。

 

■「企業価値」、「株主価値」とは?

 

 M&Aを検討する買い手企業は、外部の専門家を使って売り手企業の株価を算定し、その株価に基づいて売買価格を提示します。
 したがって、買い手がどのように株価算定しているのか、その方法を知り、自社の株価をおおまかに把握しておくことは、M&Aによる会社売却をスムーズに進めていくうえで重要です。

 

 まずは株価算定の実務でよく使われる、紛らわしい以下の用語について理解しましょう。

「事業価値」、「企業価値」、「株主価値」、「株式価値」のうち、少しわかりづらいのは株主価値です。
 「株主価値」とは、「企業価値」から有利子負債、例えば銀行からの借入とか社債などを差し引いた株主に帰属する価値のことを指します。字面だけではわかりづらいのですが、図を見れば理解できるかと思います。

 

 まず、事業から生み出されるキャッシュフローや利益の数値をもとに、例えば「利益の○年分」という目安に則って「事業価値」を算出します。そこに非事業資産を足して「企業価値」を算出し、有利子負債を差し引いたものが「株主価値」となります。

 

 この株主価値を発行済み株式数で割り戻すと「1株当たり株価」が求められます。この1株当たり株価が、M&Aの株価算定で必要となる「株式価値」となります。

 

■なぜ、企業価値を算定する必要があるのか

 

 そもそも、なぜ「企業価値」を算定する必要があるのでしょうか。
 前提として理解したいのは、中小企業の株式は、上場会社の株式のように証券取引所に流通していないという点です。そのため、中小企業の株式売買は相対で行われ、価格も当事者同士の交渉により決まります。

 

●会社の売買は不動産の売買と同じ

 

 これは不動産の売買と同じと考えるとわかりやすいです。
 昔から「隣の土地は倍の金額を出しても買え」などと言われます。ある人にとっては価値がない土地だったとしても、隣地の所有者にとっては高い金額を支払っても手に入れたい土地ということもあります。
 また、不動産情報サイトなどで売り出されている土地の価格は、あくまでも売り手の希望価格です。実際の売買価格は、買い手と売り手が交渉して決まります。
 つまり、不動産の価格に明確な答えは存在しないということです。

 

 中小企業の株式売買における取引価格についても、これとまったく同じことが言えます。
 中小企業の株式の売買は相対で決まるため、正解となる価格が存在しません。相場より高く売値を設定しても、その会社を欲しい人がいれば高く売ることができます。一方、通常の算定方法に基づいて価格設定しても、いつまでも買い手が現れないこともあります。

 

●売り手にも買い手にも企業価値算定が必要

 

 ではなぜ、わざわざ企業価値を算定する必要があるのでしょうか。その理由を売り手と買い手の立場から考えてみます。

 

 売り手は、会社を「少しでも高く売りたい」と考えます。
 そこでM&Aアドバイザーに対して、根拠のない、楽観的な売却希望額を提示する人もよくいます。自分の老後資金の必要額をそのまま提示してくるオーナーもいます。
 売却価格をいくらに提示しようが自由ですが、価格が高すぎれば、当然ながらいつまでたっても買い手は見つかりません。
 
 

 買い手を見つけて取引を成立させるには、自社の実態を把握した上で、「理論的な価値」や「相場(取引事例)」に基づいて妥当な価格を設定する必要があります。

 

 一方、買い手側は「いい会社を少しでも割安に買いたい」と考えます。
 しかし、お買い得な案件は他社も欲しがるわけですから、申し込みが殺到します。その結果、お買い得案件を少しでも割安に買おうとし続ける限り、いつまでたっても会社を買えないということになります。
 買い手側も「理論的な価値」や「相場」を把握した上で、自社が必要とするM&A案件に対していくらまでなら支払えるのか、目安を持っておく必要があるのです。目安がなければ、価値の低い案件を高値づかみしてしまう可能性もあります。

 

 また、買い手が売り手を株式譲渡で丸ごと買う場合には、売り手企業の負債も引き継ぐことになります。
 負債には、帳簿に記載されている銀行借入や社債などもあれば、未計上の負債もあります。例えば、将来的に従業員に支払わなければならない退職金は負債に該当しますが、それを帳簿に計上していないケースはよくあります。
 そういった未計上の負債や潜在的な簿外債務も、買い手は引き継ぐ必要があります。買った後に、「未計上の債務が発覚した」と気づいても後の祭りです。

 

 そうならないためにも、買い手企業はM&Aを行う際に、売り手企業の簿外負債も含めた企業価値を調査する必要があります。
 
 

 売り手・買い手ともに企業価値算定が必要であることをおわかりいただけたでしょうか。

 

 Part.1では企業価値算定の概要とその必要性について説明をしました。Part.2ではM&Aに際してどのような準備をしておくとよいのか、企業価値算定の算定の側面から説明します。また、思わぬ高値がつくようなケースとはどのようなケースなのかについて説明をしたいと思います。