M&A実務の流れ(後半)
前半ではM&Aの準備フェーズについて説明をしました。
M&Aの相談をするところから始まり、トップ面談までの概要をご理解頂けたと思います。
後半は交渉フェーズ・実行フェーズについて説明をします。トップ面談から最終契約そしてPMIについて解説したいと思います。
●交渉フェーズ
トップ面談
トップ面談では、お互いのM&A責任者が出席し、それぞれの会社の概要について説明し合います。
売り手の立場からは、「どういう理由で買いたがっているのか」「どういった経営方針をとっているのか」「買った後はどういう計画で運営していくのか」といったことを質問します。
この段階で、「買い手の社風が自社とは合わない」「この会社の下では、うちの従業員は辞めてしまうかもしれない」といった懸念があれば、交渉を断ることはできます。つまり売り手は買い手を選べるというわけです。
中小企業のM&Aにおいては、双方の合意がなければ交渉は先には進みません。ハゲタカファンドの買収劇のような敵対的買収は起きないということです。その点は安心していただければと思います。
意向表明・基本合意契約
トップ面談の結果、双方の利害が一致して、M&Aに向けて話を進めたいとなれば、通常は買い手側から、買収方法(スキーム)や買収価格を記載した「意向表明書」を提出します。複数の買い手から意向表明書が出された場合には、売り手は交渉相手を1社選びます。
交渉相手が決まったら、買い手と売り手は「基本合意書」を締結します。基本合意書を締結する一番の目的は、「売り手が買い手に対して独占交渉権を付与すること」です。独占交渉権の有効期間内(2、3カ月が多い)は、売り手は他の買い手候補とM&Aに関する交渉は一切できません。
デューデリジェンス
基本合意書の締結後、買い手企業は「デューデリジェンス(DD)」と「株価算定」を行います。DDとは、買い手企業が、売り手企業やその事業に関する情報を収集、分析、検討する手続きのことです。特に買い手が大手企業の場合は、第三者の専門家に依頼して本格的なDDと株価算定を行います。
そのDDや株価算定の費用は、当然買い手の負担です。もし買い手がDDをしている間に、売り手が他の買い手候補と交渉し、合意に達してしまったら、DDにかかる費用がムダになります。そういったトラブルをなくすためにも基本合意書を取り交わし独占交渉権を付与する必要があるのです。
●実行フェーズ
本契約(最終契約)
買い手が主に上場企業の場合、DDや株価算定の結果を踏まえて最終条件の調整を行い、本契約の作成・締結に進みます。中小企業同士のスモールM&Aでは、このあたりの手続きは多少短縮されます。
本契約は最終契約とも呼ばれ、法的拘束力のある契約になります。最終契約書における重要な条項には「表明保証」、「キーマン条項」、「チェンジオブコントロール条項」などがあります。中身をしっかり確認せずに契約に至ると思わぬ落とし穴があるので、専門家へ確認をするなどして契約内容を理解する必要があります。
また、買い手候補が複数いるなど、売り手優位で交渉を進めている場合には表明保証の条件を緩和したり、削除できる可能性があります。キーマン条項でオーナーが一定期間拘束されてしまう場合には、アーンアウト条項をつけて譲渡金額の上乗せを図る事も検討出来ます。
本契約を締結したらクロージングです。会社の印鑑を引き渡ししたり、商業登記の変更登記を行ったり、資金の決済を行ったりします。
●PMI(経営統合)
売り手企業からすればここまででM&Aの手続きはいったん終わりですが、買い手にとってはここからがスタートといえます。
買収した企業と自社の経営を融合させる「PMI(経営統合)」というプロセスが始まるのです。経営管理体制、人事、経理、ITシステムなどを徐々に統合して、売り手から買い手サイドに経営をバトンタッチしていきます。
本来PMIはM&Aを検討する段階から考慮すべき内容です。何のためにM&Aをするのか目的を明確にすることで、実りあるM&AそしてPMIを実現できると言えるでしょう。売却する事、買収する事が目的になってしまうと「こんなはずじゃなかった」、「M&Aをしなければ良かった」という結果にもなりかねません。
「100日プラン」とも言われるように、M&Aが実行された後最初の3ヶ月が特に大事だと言われています。M&A実行後すぐにPMIのプランを実施するためには、プロジェクトリーダーの選任や課題の洗い出しなどをM&Aのプロセスの段階から取り組む必要があると思われます。
従業員不安を払拭し、よりシナジーを発揮するためにも入念な準備をしたうえでPMIに取り組んで頂きたいと思います。