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どうすれば、あなたの会社を高く売れるのか?(Part.4)

■【交渉術】Point.5 モチベーションの高い相手を選ぶ

 

 買い手が「会社を買いたい」とモチベーションが高まっている時に、ニーズに合った売り手企業が見つかると、少しくらい高い価格であっても買いの判断を下します。

 

 では、どのような状況の時にモチベーションが高まるのでしょうか。

 

●売上シェア拡大が喫緊の課題
 売上やシェアの拡大を喫緊の課題だととらえている会社は、M&Aに対して積極的です。特に「この会社を買うことで、業界3位から2位に上がれる」といった計算ができると、買収へのモチベーションが高まります。

 

●新しい事業領域への進出が急務
 今後の市場縮小が確実視されている業界に身を置いている会社にとっては、新しい事業領域の進出は急務です。しかし、新しい事業領域に対する知見がないと、ゼロからビジネスを立ち上げることになり、時間がかかり失敗するリスクも高いです。

 

 そこで、買い手が今後進出しようとしている事業領域で、すでに実績ある会社が見つかれば、多少高くても買いたいというモチベーションが生まれます。

 

●ライバル会社に負けないため
 ライバル会社が何か新しい取り組みを始めた時に、「うちも急いでやらなければ」という心理が働きます。そのライバル会社が取り組んだことと、同じ機能や仕組みを有している売り手企業があれば、買い手は「高くても買いたい」と考えます。

 

●会社の予算達成のため
 上場会社や大企業では予算の達成を重視しています。担当者にとって予算の達成状況は自分のボーナスにも影響する重大事項であり、予算達成のために利益が出ている会社を急いで買うこともよくあります。

 

●中期経営計画の方針
 中期経営計画のなかで利益目標やM&Aの目標を示している場合、その達成のために会社を買収しようというモチベーションが働きます。

 

●上場維持のため
 上場を維持し続けるためには、一定の基準を満たす必要があり、そのために利益が出ている会社を買いたいというニーズはあります。

 

●オーナー社長の趣味嗜好
 オーナー社長が自分の趣味趣向だけで会社を買うことはよくあります。その趣味嗜好にマッチした売り手企業であれば、売却価格や業績に関係なく買ってもらえることがあります。

 

■【交渉術】Point.6 売却価格の考え方をよく知っておく

 

 別のコラムで説明した株価算定の方法など、売買価格を決定するためのロジックを知っていることが、高く売ることにつながります。

 

 例えば、あるオーナー社長が「5億円なら会社を売るよ」と買い手に価格を提示したとします。なぜ5億円なのかというと特に根拠はなく、単に「5億円あったら老後の心配がいらないから」です。このような考え方のオーナーはよくいます。

 

 しかし当然ですが、買い手は「その価格に見合うだけの価値があるの?」と疑ってかかります。
そしてDDの段階でネガティブなポイントばかりを突かれて、結局、大幅にディスカウントされた最終価格を提示される可能性があります。

 

 一方、M&Aをわかっているオーナーが、「類似企業ではEV/EBITDA倍率が5倍程度で売られている。当社もその水準に当てはめると、売却価格は5億円です」と、きちんとした根拠とともに価格を提示したらどうでしょうか。

 

 買い手は「この社長、わかっているな」と感心して、こちらの会社と話を進めようと思うはずです。DDの段階でも、「EBITDA5倍の5億円という提示価格は適正なのか?」を検証すればいいので、調査が比較的しやすいといえます。

 

 だからこそ、希望売却価格の根拠をうまく説明できるようになることが大切なのです。

 

 何度か説明したように、実は株価算定の大部分は後付けのロジックでしかありません。「まずいくらで売りたい」という希望を設定してから、そのロジックを説明するためのストーリーを考えることも可能です。

 

 そんなこじつけのストーリーであっても、何も示さないよりはだいぶマシです。こちらの意図を、根拠とともにきちんと伝えることで、買い手のペースに巻き込まれることなく交渉を進められます。 

 

■【交渉術】■Point.7 悪いことこそ初めに伝えておく

 

 すでに説明した通り、基本合意の段階で提示された金額が、DD後に上がることはありません。どちらかといえば、あらを探し、値下げ交渉をするためにDDをしているともいえます。

 

 ですからDDの段階でこれまでに伝えていないネガティブな要因が発覚すれば、それは確実に値下げ交渉の材料にされてしまいます。

 

 DDへの対応は大変です。資料依頼リストに記載された資料を用意するだけでもひと苦労ですし、追加でもいろいろ求められます。しかも、従業員には気づかれないように進める場合には、経営者の負荷は非常に大きいです。

 

 その結果、いろいろな指摘事項が見つかり、結局値下げされることになります。売却経験者に話を聞いても、DD後に値下げを打診されたという話がほとんどです。

 

 だからこそ、基本合意を締結する前に、ネガティブな要因はすべて開示しておくことが大切です。懸念事項もすべて開示したうえで基本合意を取り交わせば、それはDD後の値下げ交渉の材料にはなりません。

 

 主要な取引先との契約書がない、会社のお金を公私混同している、訴訟リスクを抱えているなど、あらかじめわかっているリスクや懸念点は、「聞かれなかったから」と隠すのではなくて、自ら率先して基本合意の前に伝えておきましょう。

 

 続く