経営者が理解するべき財務会計のポイント(Part.4)
■損益計算書の基本
次に損益計算書について説明します。損益計算書に計上されているのは、その会計期間において行われた取引の成果です。
損益計算書には「勘定式」と「報告式」の2種類のフォーマットがあります。次の図の左側が勘定式、右側が報告式です。
●売上の流れと損益計算書
ひとまず勘定式で損益計算書の概要を説明します。
勘定式の損益計算書は、左側の「費用」と右側の「収益」に大きく分かれます。
例えば、その会計期間において商品を売った金額は、損益計算書の右側の「売上高」に記載されます。この時、貸借対照表上では、現金で売り上げた場合には「現金」が、掛けで売り上げた場合には「売掛金」が資産の部に計上されます。
また、商品を売り上げた場合には通常、何らかの仕入をしています。その仕入金額は、損益計算書の左側の「仕入高」に記載されます。この時、貸借対照表上では、現金で仕入れた場合は「現金」が減り、掛けで仕入れていた場合には「買掛金」が負債の部に計上されます。
このようにして損益計算書には、収入と費用に関連する金額が計上されていきます。収入と費用の差額が「利益」です。利益がマイナスになっている場合は「損失」と呼ばれます。
●いろいろな利益の概念
勘定式の損益計算書を、報告式で組み替えると図の右側の損益計算書になります。上場企業の決算発表で外部に公開されるものは、この報告式の損益計算書です。
報告式の損益計算書では、会社の活動による利益を5段階に分けて表示しています。それぞれの利益の種類と意味合いは次の通りです。
・売上総利益……売上高から売上原価を引いたもの。粗利とも呼ばれる。
・営業利益……売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いたもの。本業からの利益を示す。
・経常利益……本業と本業外(受取利息や配当金など)で得た利益の合計。企業の利益獲得能力を示す。
・税引前当期純利益……経常利益に、本業とは関係のない特別な事象によって発生した損益を加味して計算したもの。特別な事象とは、固定資産を売却して売却益を得た、災害で大きな損失が発生した、など。
・当期純利益……税引前当期利益から会社が納める税金を差し引いた額。最終的な利益のことで、この額が自己資本の増減につながる。
■財務諸表を理解するための演習問題
ここで、財務諸表に対する理解を深めるための問題を解いてみましょう。
【問題】
Iさんは、商店街で魚屋さんを始めることにしました。次の取引を行った時、財務諸表にどのように反映されますか? また、いくら儲かったでしょうか?
①資本金100万円で会社を設立した。
②豊洲市場で50万円でマグロを仕入れた。
③マグロを切り身にして、100万円で売り切った。
④銀行から100万円を借りた。
⑤業務用冷蔵庫を100万円で買った。
⑥アルバイト代20万円を支払った。
⑦家賃20万円を支払った。
【解説】
このお金の流れを単式簿記(おこづかい帳)の形式で処理すると次のようになります。
最初にIさんから会社に100万円が振り込まれ、50万円を仲買人に払い、お客さんからマグロを売った代金100万円受け取り、銀行から100万円借りて、Y電気から100万円で冷蔵庫を買い、アルバイトに20万円払い、家賃を20万円払った……と計算していくと、最終的に110万円儲かった、となります。しかし、当然ですが、これは大きな間違いです。
では次に複式簿記で処理します。複式簿記とは、取引の原因と結果を同時に記録する会計処理の方法です。複式簿記では、お金の流れを財務諸表の五つの箱(資産、負債、純資産、費用、収益)のいずれかに記載していきます。
複式簿記形式でIさんのお金の流れを記載すると次のようになります。
①資本金100万円で会社を設立した。
→純資産の部で「資本金」100万円を計上する。資産の部で「現金」が100万円増える。
②豊洲市場で50万円でマグロを仕入れた。
→費用の部で「仕入高」が50万円発生し、資産の部の「現金」が50万円減る。
③マグロを切り身にして、100万円で売り切った。
→収益の部で「売上高」が100万円発生し、資産の部の「現金」が100万円増える。
④銀行から100万円を借りた。
→資産の部の「現金」が100万円増え、負債の部の「借入金」が100万円増える。
⑤業務用冷蔵庫を100万円で買った。
→資産の部の「固定資産」が100万円増え、「現金」が50万円減る。
⑥アルバイト代20万円を支払った。
→費用の部で「雑給」が20万円発生し、「現金」が20万円減る。
⑦家賃20万円を支払った。
→費用の部で「地代家賃」が20万円発生し、「現金」が20万円減る。
この結果、実際に儲かったかどうかを財務諸表で確認します。
すると、手持ちの現金は110万円になっていますが、借入金も100万円増えているので、実際の儲けとしては10万円であることが確認できます。単式簿記(おこづかい帳)形式ではわからない実態が、複式簿記形式ではわかるということです。