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経営者が理解するべき財務会計のポイント(Part.1)

 M&Aの実務でよく使われる具体的な評価方法を説明する前に、中小企業の社長として最低限知っておきたい、会計の基本的な知識について解説します。この知識がないと株式価値が実際にどのように計算されるのか理解していただくのが難しいからです。

 

す でに知識がある方にとっては、不要な内容かもしれませんので読み飛ばしていただいても結構です。

 

 財務諸表とは「貸借対照表(B/S)」、「損益計算書(P/L)」、「キャッシュフロー計算書(C/F)」、「株主資本等変動計算書(S/S)」の四つの書類のことを指します。

 

 法律に基づき、すべての会社にこれらの書類の作成が義務づけられています。適用される法律と書類の種類は、以下の通り会社によって異なります。

 

 

●財務諸表の利用目的
 財務指標の利用目的は、利害関係者によって異なります。

 

・投資家にとっては、投資に適した企業かどうか判断する材料となります。

 

・株主にとっては、投資を継続して問題がないか、あるいは現在の財政状態や経営成績がどうなっているのかを確認する材料となります。

 

・銀行・債権者にとっては、融資したお金や売上債権の回収に問題がないかを判断する材料となります。

 

・取引先は、取引を継続するのに問題がないのか、会社の状態を知るために使います。

 

・税務当局は、法人税の納付額に誤りがないかを確認するために使います。

 

 では、M&Aの買い手候補は何を求めて財務諸表を確認するのでしょうか。

 

 買い手は、投資の意思決定をするために、財政状態や経営成績を知りたいと考えます。また、投資の結果としてどれくらいの利益を生み出しているのか、キャッシュフローや資金繰りについても知りたいと考えます。

 

 このように財務諸表は、見る人によって利用目的が少しずつ違います。
 経営者の立場としては、銀行に見せるか税務署に提出する時くらいしか財務諸表を利用することはないかもしれません。しかし他の利害関係者にとっては、いろいろな利用目的があるわけです。

 

■本気でEXITを目指すなら適正な決算を

 

 オーナー社長が財務諸表を誰かに渡す時、その相手によって、受け取ってほしい印象が異なります。

 

 例えば融資を申し込む際に銀行に提出する際は、「儲かっている会社と思ってほしい」のに対して、税務署に対しては「利益が出てない会社と見られたい」と、反対方向の思惑が働きます。

 

 その結果、決算書を操作したくなる衝動にかられます。それを実際にやってしまうと、いわゆる粉飾決算になります。

 

●なぜ、経営者は粉飾決算をしたがるのか
 実はM&Aを検討する際も、粉飾決算は重要なテーマです。粉飾決算には「粉飾」と「逆粉飾」の2つがあります。

 

 通常の粉飾決算は、会社の利益を大きく見せるためのもの。言わば、会社の体面を保つことを目的に行われるものです。

 

 例えば銀行に対して、借入をしやすくするために、本当は赤字なのに黒字にしたりするケースが該当します。

 

 また、取引先の大手企業から与信調査として決算書の提出を求められた場合などは、信用維持のために少しでも利益を大きく見せるというかたちで、決算数値を調整するケースもあります。

 

 これとは反対なのが逆粉飾です。これは税務当局に提出する際に行われます。
 利益が多く出ている時に、少しでも納める税金を削りたいと考え、例えばメーカーが在庫を少なく計上したり、あるいは私的な経費をたくさん計上したりして利益を減らすといった例があります。

 

 M&AやIPOなどEXITを目指す経営者にとって、粉飾・逆粉飾をやることのメリットは一つもありません。

 

 M&Aの実務では、買い手に対して、会社の実態を正直に知らせる必要があります。なぜなら、いくら粉飾したとしても、デューデリジェンスの段階でどうせ分かってしまうからです。

 

 もし、後から粉飾の事実が発覚すると、売り手オーナーは買い手企業から不信感を抱かれます。「他にも何か隠しているのでは」と疑われてしまい、その結果、実態よりも低い価格で評価されてしまう可能性もあります。

 

 IPOをする会社においても同様で、粉飾決算をすれば、会計監査で見つかってしまいます。悪質な場合は金融商品取引法違反で経営者が捕まります。

 

●売却前3年は適正な決算を
 粉飾と逆粉飾、M&Aを考える場合にはどちらもデメリットしかありません。

 

 「利益を抑えるために逆粉飾するのは当たり前。買い手もわかってくれる」などと考える中小企業オーナーは多いのですが、その経営姿勢に対して買い手がどんな感想を抱くのか考えてみてください。

 

 本気でEXITを目指すのであれば、少なくとも売却前の3年分は、できるだけ適正な決算を心がけるべきでしょう。

 

 ただし、これは程度の問題です。
例えば、オーナー社長の私的な交際費が多い会社はよくあります。本当に適正な決算をするのであれば、私的な交際費は計上すべきではないといえます。

 

 しかしM&Aの実務において、私的な交際費の多さが問題になることはほぼありません。交際費の実態は調べればすぐにわかることですし、売却後にオーナー社長が引退すれば、交際費の支出がなくなり、利益が上乗せされることもわかります。

 

 ですから、実務上、買い手は私的な交際費は今後発生しないという前提で売り手の企業を評価することはあり得ます。粉飾決算は全てダメというわけではなく、あくまでも、程度の問題と理解してください。

 

続く